写真)メガソーラーいいだ
出典)Ⓒ中部電力株式会社
- まとめ
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- 「テクノフェア2025」では、中部電力と飯田市による「飯田マイクログリッド」と、同社と研究機関と協働で進める「太陽光パネルのリサイクル技術」の2つの研究成果が報告された。
- 「飯田マイクログリッド」は、平常時の再生可能エネルギーの地産地消と非常時の電力供給を両立する地域分散型エネルギーシステムを目指している。
- 「太陽光パネルのリサイクル技術」は、希少元素であるアンチモンの効率的な抽出プロセスを開発し、2030年代に顕在化する太陽光パネルの大量廃棄問題に対応する。
前回に続き、電力会社と関連協力企業や研究機関、大学などによる研究成果を公開する「テクノフェア2025」(主催:中部電力株式会社技術開発本部)について紹介する。
1 地域主導のエネルギー革命:飯田マイクログリッドが示す「脱炭素と防災」のフロンティア
最初に取り上げるのは、「将来に向けたグリッド研究」だ。「飯田マイクログリッドの実証研究」と、「大高グリッド試験設備の構築」からなる。
「飯田マイクログリッド」は、長野県飯田市と中部電力株式会社が協働で推進してきた。このプロジェクトは、環境省の「脱炭素先行地域」に選定されたもので、既存の配電系統を活用しながら、地域のエネルギー自給と災害レジリエンス(強靭性)を強化する日本の地域脱炭素のモデルケースとして注目されている。
マイクログリッドとは、平常時は商用電力系統と接続しつつ、災害などによる大規模停電時には系統から切り離して自立し、地域内に電力を供給できる小さな電力網の仕組みだ。
飯田市川路地区は、古くから「暴れ天龍」の異名を持ち、長野県と静岡県にまたがる「天竜川」の氾濫と戦い、明治時代に地域資本で水力発電所を建設した歴史を持つ。
飯田マイクログリッドは、川路地区の約70軒の需要家と、既設の太陽光発電施設「メガソーラーいいだ」(1,000kW)、新設された大型蓄電池(容量1,900kWh)、および需給バランスを最適制御するエネルギーマネジメントシステム(EMS)で構成される。
災害等で長時間の停電が発生した場合、商用電力系統から切り離し、地域内の配電線を活用して、メガソーラーと蓄電池から避難施設等(川路小学校、保育園など計6施設)へ電力を自立供給する仕組みだ。

出典)中部電力株式会社
飯田マイクログリッドの目的は、「平常時の脱炭素」と「非常時対応」の2つだ。
平常時においては、天気の良い昼間にメガソーラーなどのエリア内太陽光発電からエリア内の需要を差し引いた電力のうち一部を蓄電池に貯め、夜間にはその蓄えた電力を需要に応じて放電するという最適運用を通じて、地域の再生可能エネルギーを最大限活用し、エネルギーの地産地消を促進する。
もうひとつの目的は、非常時における地域社会の「孤立」を防ぐことである。停電時にも地域の配電線を利用するため、携帯電話の基地局などのインフラに電気供給が維持される。
次世代の配電系統の課題解決へ「大高グリッド」
このように非常時に威力を発揮する飯田マイクログリッドだが、こうした地域マイクログリッドは、非常時に電力系統から独立して稼働するため、非常時の複雑な系統挙動を事前に検証する必要がある。この検証にも活用できるのが、中部電力の技術開発本部敷地内に構築された「大高グリッド試験設備」(以下、大高グリッド)である。

Ⓒエネフロ編集部
大高グリッドの役割は、一言でいうと実フィールド実装・適用の「事前検討・事後フォロー」だ。実物の配電設備を用いて、蓄電池などの電源装置と模擬・実負荷設備から構成される「模擬の配電系統」である。
停電を伴うような故障検証や、非常時・自立運転時の挙動検証を実設備で安全に再現したり、平常時に配電系統に新たな制御や機器が適用された場合の効果や課題を事前に把握したりする役割を担う。
また、地域マイクログリッドに関するシミュレーション技術の確立や、EMS制御の最適化にも活用される。これにより、飯田での知見を他の地域マイクログリッド構築事業へ展開するための技術的な基盤を提供する。
飯田マイクログリッドが「現場での実践」であるのに対し、大高グリッドは「現場を支えるためのラボ(実験場)」という関係性にあり、両者は次世代配電系統技術開発の両輪となっている。
飯田マイクログリッドは、大高グリッドで培われた技術も生かし、2030年までの実運用開始を目指して地域とともにフィールド試験を進めていく予定だ。この取り組みは、中山間地域が多く、災害による集落孤立リスクが高い日本の国土全体にとって、安全・安心な地域の魅力向上と地域分散型エネルギーシステムのモデルとして大きな役割を果たすことが期待されている。
2 太陽光パネルのカバーガラスの革新的リサイクル
次は、昨今その環境に対する影響で話題になっている大規模産業用太陽光発電所(メガソーラー)のリサイクル問題に対する取り組みだ。
メガソーラー設備のリサイクルで問題となっているのが太陽光パネルの処理だ。その耐用年数は20〜30年といわれている。FIT(Feed-in Tariff:再生可能エネルギー固定価格買取制度)が始まったのが2012年なので2030年ごろからソーラーパネルのリサイクル問題が顕在化してくる。
経済産業省によると、太陽光パネルの推計排出量は2030年代半ばから顕著に増加し、最大50万t/年程度(うち、既設の太陽光パネルは40万t/年程度)まで達する見込み。これが全て直接埋立処分された場合、2021年度の産業廃棄物最終処分量869万t/年に対して約5%に相当する。
実用化されている太陽光電池は、主に「シリコン系(結晶系、薄膜系)」、「化合物系(CIS/CIGS 系、CdTe 系)」 のふたつに大別することができるが、日本のメガソーラーの主流は、圧倒的にシリコン系である。
そのパネルのうち重量比62.5%を占めるカバーガラスの主成分は 一般的なガラスと同じく二酸化ケイ素だが、ガラスの製造工程(溶解工程)で発生する気泡を取り除き、透明度を高める(清澄剤として)ため、微量のアンチモン(Sb)という希少元素を含んでいる。
このアンチモンは大部分を輸入に頼っていることから、効率良く分離回収することは経済安全保障上から重要だ。
こうしたなか、中部電力と産業技術総合研究所(産総研)は、協働でアンチモンの新たな抽出プロセスを開発した。
このプロセスの特徴は、従来の複雑な化学処理ではなく、「水熱処理」という温和な条件を利用している点にある。その過程は以下の通り:
前処理(粉砕):使用済みソーラーパネルからカバーガラスを剥離し、それらを小さく砕いた後、メッシュ状のスクリーンで分級(ふるい分け)してガラス粒子を選別する。
水熱処理:得られたガラス粉末を水と混合させ、密閉容器(圧力容器)に入れる。
加熱・攪拌:この混合物を、一般的な圧力容器の標準設計温度以下の温度で、1時間から6時間程度、攪拌しながら加熱処理する。
分離・回収:水熱処理後に得られた懸濁液(スラリー)を遠心分離にかけることで、アンチモンを含んだ液相(溶出した成分)と、結晶化した沈殿物(ガラス粉末)に分離する。

出典)産能研
このプロセスにより、廃ガラス粉末から約8割のアンチモンを抽出できることを蛍光X線分析などで確認した。温和な条件下(一般的な圧力容器の設計温度以下)で処理できるため、工業的に実現可能であり、省エネルギーで効率的だと評価されている。
今後は、処理のスケールアップを進めるとともに、抽出後のアンチモン分離・回収技術、そして残った結晶化ガラス粉末の有効活用に取り組む予定だ。

Ⓒエネフロ編集部
あとがき
今回の「テクノフェア」の取材を通じて、日本のエネルギーとインフラが直面する二つの大きな課題、すなわち「非常時の電力供給」と「使用済み太陽光発電パネルの処理」に対し、中部電力と研究機関が具体的な解決策を研究開発していることを確認した。
飯田マイクログリッドと大高グリッドの研究は、再生可能エネルギーの地産地消と非常時レジリエンスの確保という2つのメリットを両立させようとする試みだ。日本の国土が抱える地理的・災害的なリスクを乗り越えるためのひとつの解となりうるのではないか。
一方、アンチモン抽出技術というリサイクル技術は、2030年代に顕在化する「太陽光パネル大量廃棄」という構造的な難点に対し、希少資源の回収という経済安全保障的な解決策を提示した。
これらの取り組みは、再生可能エネルギー導入の裏側にある「潜在的な障壁」に、真正面から挑んでいる点で重要だ。技術的な優位性を、いかに国の政策や産業全体に速やかに実装し、「持続可能なエネルギーの循環」を実現できるか。その成否が、日本の脱炭素社会の未来を決定する鍵になると感じた。
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