
写真)落雷(イメージ)
出典)heatherlg/GettyImages
- まとめ
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- 高精度雷情報配信サービス「雷鳴神's Eye」が企業のBCP対策を強化。
- 独自の雷観測網と通知機能で、雷被害の予測と早期対応が可能に。
- 製造業だけでなく多様な業界で活用され、事業継続に貢献。
夏と聞いて雷を思い浮かべる人も少なくないだろう。実際、気象庁によると8月は最も雷が多い。そして落雷の日数だが、この8年でなんと約3倍に増加しているのだ。

提供)株式会社中電シーティーアイ
米カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)などの研究チームが発表した論文によると、世界の平均気温が1度上昇するごとに、落雷が約12%増加することが分かった。気温が今世紀末までに4度上昇すると、落雷は50%近く増加することになるという。落雷は現在、世界で年2,500万回発生している。
その雷の観測が東京スカイツリーの、展望台よりも高い地上約500m地点でおこなわれていることは以前リポートした。(参考:「雷を徹底分析 東京スカイツリー®497m地点にある不思議なコイル」2024.07.23)
なぜ雷の観測が必要かというと、落雷が人的・物的被害をもたらす危険なものだからだ。企業、特に製造業にとって、落雷は電気設備に深刻なダメージを与えるやっかいなものだ。近年、高度情報化の進展によりさまざまな電子機器がネットワーク化されており、雷による被害を防ぐ必要性が高まっている。
特に精密機器を多用し、24時間稼働を続ける製造業の工場などは、生産ラインがわずかな時間停止しただけでも不良品が大量発生して莫大な損失につながるなど、事業継続を脅かす深刻なリスクとなっている。半導体工場の生産設備が落雷で一時停止しただけで、2週間の生産ロスとなった事例もあるという。つまり製造業にとって、雷のリスクをいかに予測し、被害を未然に防ぐかは重要課題なのだ。
雷対策には、ハードとソフトの両面の対応がある。「ハード対応(避雷対策)」は、設備の増強によって雷による被害を軽減・防止するもので、人的・物的な直接的被害を抑制することができる。一方、大きな初期投資と工事・取付けにはリードタイムが必要だ。
一方、雷の発生・接近を予測・監視しアラート通知するのが「ソフト対応(襲雷予測)」だ。雷のダメージを最小限にするための生産ライン停止などのアクションを事前・早期に取れるようになる。小さな初期投資ですぐに使い始めることができることから、近年、注目を集めている。
中部電力グループの株式会社中電シーティーアイ(以下、中電シーティーアイ)が提供する雷情報配信サービス「雷鳴神's Eye(ライメイシンズアイ)」がその一つだ。
「雷鳴神's Eye」誕生の背景
中電シーティーアイは、約20年にわたり、企業向けに雷情報の提供をおこなってきた。年々進化してきたというこのサービス。企業のBCP対策(注1)をどう変えようとしているのか。中電シーティーアイの営業部専門課長の山田 茂氏とデータサイエンス部主事の堀江敬太氏に話を聞いた。
1. 雷情報配信サービスの変遷
中電シーティーアイの雷情報配信サービス提供の歴史は、約20年前に遡る。
「もともとは、雨や雷などさまざまな情報を含んだ地域気象情報配信サービスを提供していました。その中で、あるお客さまから『工場のBCP対策として、もっと雷に特化した情報がほしい』という具体的な話が出てきたのです。そこから、現在の『雷鳴神's Eye』の元になる、雷情報配信に特化したサービスが生まれました」。(堀江氏)
当初は「雷情報配信サービス」という実直な名前だった。顧客のニーズを汲み取りながら改良を重ね、現在の「雷鳴神's Eye」の原型ができたのは2018年頃だという。

ⓒエネフロ編集部
このサービスの心臓部となっているのが、高精度な雷観測網だ。中電シーティーアイは、中部電力株式会社(以下、中部電力)が中部エリアを中心に高密度で設置している、高性能な落雷位置評定システム「LLS(Lightning Location System)」のデータを活用できるという、他社にはない強みを持つ。
「LLSは、落雷を感知する機器で、中部エリアとその周辺に11基設置されています。これに気象庁が全国に展開する31基のデータを合わせ、合計42基で全国をカバーしています。特に中部エリアでは、気象庁のデータよりも高精度な中部電力のLLSを優先して利用することで、より信頼性の高い情報を提供しています」と山田 茂氏は説明する。
営業本部 営業部 営業1グループ 専門課長 山田 茂氏

ⓒエネフロ編集部
この高密度な観測網により、雷雲の移動だけでなく、実際にどこに雷が落ちたか(落雷位置)、その電流値はどのくらいかといった詳細な情報をリアルタイムで把握できる。この「観測精度の高さ」が、企業の具体的な行動変容を促すサービスの基盤となっているのだ。

提供)株式会社中電シーティーアイ
2. 「雷鳴神's Eye」の特徴
「雷鳴神's Eye」が多くの企業から評価される理由は、単なる情報提供に留まらない、具体的なアクションを誘発する機能にある。
「工場向けのBCP対策が一番の主軸ですので、自動で通知を受け取って『何とかしないといけない』と、アクションのきっかけを与えることが大事だと考えています」と堀江氏は語る。
その仕組みはこうだ。まず、顧客企業は自社の施設を中心とした監視エリアや、雷の危険度に応じた警戒レベル(閾値)を事前に設定する。そして、その設定条件に合致する雷雲が接近、あるいはエリア内で落雷が検知されると、システムが自動でアラートを発信する。
通知方法は、PCやスマートフォンの画面表示だけでなく、登録したメールアドレスへの一斉配信も可能だ。これにより、生産管理者や施設の安全管理担当者は、リアルタイムで危険を察知できる。

青線:接近領域 黄線:注意領域 赤線:警戒領域
提供)株式会社中電シーティーアイ
そのような仕組みであっても、自動車の組み立て工場のように巨大な製造現場では、情報の伝達に遅れが生じたりしないのだろうか?
「パトライト(回転灯)と連携させることができます。弊社から警戒アラートのメールが飛ぶと、瞬時に場内のパトライトが音や光で危険を知らせるので、広大な敷地でもタイムラグなく情報が伝わります。」(山田氏)
アラートを受け、管理者は事前に定めたルールに基づき、生産ラインの一時停止や、従業員に対する屋内への避難指示といった具体的な行動を起こす。重要なのは、「いつ止めて、いつ再開するか」という操業判断の拠りどころとなる点だ。
「ウォーニング(注意喚起)のメールが来なければ止めなくていい、という判断ができます。それは、無駄な生産ロスを出さないことにもつながります」と山田氏はそのメリットを語る。
従来、現場の担当者が空模様や勘に頼っておこなっていたという判断を、客観的なデータに基づいて合理的におこなえるようにする。これにより、担当者は「常に空を監視し続けなければならない」という精神的なプレッシャーから解放される。堀江氏は「自分で見続けなければいけない状況から、通知を『待つ』状況に変えることの心理的な安心感は非常に大きい、という話をユーザーから聞いています」と、導入企業の評判を語った。
3. 多様なニーズへの対応
「雷鳴神's Eye」の活用事例は、製造業に留まらない。山田氏によると、あるJリーグのチームでは試合や練習の中断・再開の判断に、また、あるテーマパークでは来場者を安全に屋内へ誘導するための判断材料として活用されているという。野外イベントを主催する会社やゴルフ場など、天候に事業が大きく左右される業界にとっても、その価値は大きい。
顧客からの評価は高く、サービス開始当初は2社ほどだった契約数は、現在30社を超え、毎年着実に増加しているという。背景には、高い機能性だけでなく、コストパフォーマンスがある。
「フル機能が使えるスタンダードプランで月額19,800円(税込)、機能を絞ったベーシックプランなら月額9,900円です。価格はどこの会社にも負けないと思います」と山田氏は自信を見せる。
この価格設定により、これまでBCP対策に多額の投資が難しかった中小企業でも導入しやすくなっている。日本の製造業の裾野を支える中小企業の事業継続に貢献できるポテンシャルは大きい。
多くの企業から支持される一方で、サービスには課題もある。技術的な課題としてのUI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス)の改善だ。堀江氏は「もっと直感的に使えたり、最近のトレンドに合わせたリッチな見た目にしたりと、より使いやすいものにしていくことを考えています」と、継続的なアップデートへの意欲を示す。
4. 編集後記
最後に、「雷鳴神's Eye」のさらなる普及に向けての目標について聞いた。
「まずは今年度中に契約件数100件を目指したい」と山田氏は力を込める。現在の3倍以上となる高い目標だが、その達成に向け、スマート工場EXPOのような展示会への出展や、メディアへの露出を増やすなど、地道な販促活動に力を入れている。
気候変動により雷リスクが増大する中、高精度な雷情報配信サービスは、製造業における機会損失を低減し、日本企業のレジリエンス強化と事業継続を支える上で不可欠なツールとなるだろう。
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BCP対策
企業が自然災害や事故などの緊急事態に遭遇した場合でも、事業を継続または早期復旧できるように、平常時に事業継続計画(Business Continuity Plan:BCP)を策定しておくこと。
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