コペンハーゲンのEV(電気自動車)
flickr by News Oresund
- まとめ
-
- 欧州各国はガソリン車からEV(電気自動車)へのシフトを打ち出している。
- しかし、EVの伸びは鈍化している。
- 自転車専用ハイウェイやカーシェアなどの仕組みも同時に進めることが必要。
進む欧州のEVシフト
先日催された「東京モーターショー2017」では、各メーカーのEVに関する展示が目立ち、日本国内、日本の自動車メーカーもEV化が無視できない傾向になりつつある。
同じく欧州では今、これまでにないほど、ガソリン車からEVへのシフトチェンジについて議論が活発に行われている。例えばドイツでは現在、2030年までにガソリン車等の販売を禁止できるよう議論が行われている。
同様にフランス、イギリスでは、2040年までにディーゼル車およびガソリン車の販売を禁止する政策方針が打ち出された。デンマークも例外ではなく、2050年までに化石燃料の使用を廃止し、ニュートラルな社会を目指し奮闘している国のひとつである。ではそんな欧州、デンマークの実情はどうなのだろうか。
デンマークの現状
近年、欧州はよりクリーンなエネルギーを求めバイオエネルギーや風力などの再生可能エネルギーの積極的な活用が進んでいる。我々が住むデンマークでは80年代より進められる風力発電の利用がますます発展しているばかりか、更なるクリーンエネルギーの先鋒として自転車のための高速道路が開通したり、空気環境コンシャスの街コペンハーゲンのためにITを活用したり(Vol.03 グリーンな社会目指すデンマーク自転車ハイウェイとIoT)、環境に良い社会を作るための政策や企業活動が率先して進められているように思える。
日本にいる皆さんも、このような欧州のエネルギー周りの話題は、大手をはじめとした様々なメディアで目にすることだろう。しかしながら、関連する統計に目を向けてみると、少なくとも交通分野では、印象とは異なった欧州の姿が見えてくるようだ。この“不都合な真実”とも言える現象を少し紐解いてみたい。
欧州の不都合な真実 EV伸び悩み
まず乗用車新規登録台数を見てみよう。2016年、EU27か国の乗用車新規登録台数は、前年比6.8%増の1,464万1,356台だった。その中でも自動車に否定的で自転車シフトが進んでいると思われるデンマークでは、前年比7.4%増の222,927台と、意外にも自動車の販売台数は増えていることがわかる。
さらに、2015年のデータでは、デンマーク国内の乗用車の台数は、273万6千台であり、人口1000人あたりの自動車数は487台と、単純計算では約半数が所持していることになる。
この自動車普及率は、世界で31位となっており、日本が13位、韓国が42位と考えると、デンマークで自動車は意外にも普及していると言っていいのではないだろうか。
(参考)
2015年 主要国の自動車生産・販売動向
世界の自動車普及率 国別ランキング・推移
そんなデンマークの自動車の内訳を見てみると、2007年から2016年までの間にガソリン車、ディーゼル車の新規登録台数が上昇していることが分かる。
(参考)Global EV Outlook2017、Inside EVs、デンマーク大使館Facebook、
TRADING ECONOMICS、eafo、総務省統計局「世界の統計2017」
上記の数値をもとに筆者作成
それに対し、EVの普及率は、税の優遇施策を開始した2010年から上昇し始めたが、その取り組みの廃止が決定した2015年をピークに、翌年の2016年には80%も登録台数が減少している。
新車の4割がEVで、これまで他国をリードしてきたEV大国ノルウェーにおいても、EV所有者が再度購入を検討すると答えたのが半数に留まったことが、2016年6月付けの日本ヤフーニュースで伝えられているなど、EV普及の道のりは必ずしも平坦ではない。
最新の欧州自動車工業会(ACEA)による調査では、欧州でEVの割合が1%を超えるのは、西ヨーロッパの1人当たりのGDPが3万ユーロを超える国だけであることが分かった。経済危機に陥ったギリシャ、EUに新規加入した中東欧などGDPが1万7千ユーロ以下の国では、割合はほとんどゼロに近かった。
各国で大胆な施策は打ち出されており、注目はされてはいるが、現状欧州では、EV車の普及率は伸び悩んでいることがわかる。
カーシェアに活路
実際に環境に優しい交通手段の確立は困難なのだろうか。デンマークでは、近年各都市で積極的に進められる自転車利用の環境整備が注目されるが、この他に、大気汚染減少に貢献すると考えられるカーシェアリングがわずかながらであるが救世主となりそうな兆しを見せている。
同国のカーシェアリングは、残念ながらEV利用ばかりではなく一般ガソリン車も利用されているが、それでも排気ガスを減少させるのに少しは役立っているだろう。このカーシェアリングのシステムは、日本の大手会社のシステムに似たものから、アメリカ発の一般人をタクシードライバー代わりに格安に利用することができる、“Uber”に似たものである。
表1に主に現在のデンマークで使用されているカーシェアリングの概要を示した。例えば、DriveNow(ドライブナウ)は2015年9月にドイツBMWがEV(BMW i3)400台で開始したカーシェアリングサービスで、キーカードに多くのデンマーク人が保有する交通カードを利用することで、利便性を高めたサービスを提供しているなど、各サービス特色を打ち出している。
企業名 | 概要 |
---|---|
Letsgo (自動車貸出型) |
23歳以上が利用可能で、複数の会員タイプから自分に合ったものを選び利用する。 タイプは主に、高級車の使用、必要な時のみの使用、車を所有する代わりに使用する3タイプがある。 費用は使用時間と走行距離によって換算され、メンテナンス、駐車場所等は同社が管理。 |
DriveNow (自動車貸出型) |
89デンマーククローネで登録でき、アプリを使って車を検索、使用できる。 費用は使用時間により換算される。 車の駐車場所:EVは専用の充電場所、一般車は公共施設、専用の駐車場等。 |
Carpool (相乗り型) |
無料で使用可能。通勤から旅行まで。 メールアドレスを登録、出発地と目的地から最適な相乗りを選択。 費用は各オーナーにより設定。 |
GoMore (相乗り、貸出、リース型) |
相乗り時の登録は無料で、出発地や目的地等から相乗り可能な車を検索でき、以前の同乗者のコメント等も見ることができる。 所有している車を使わない間、他人に貸し出せる。 協働会社からリースしている車を、使わない間貸し出せる。 |
真に環境にやさしい施策とは
本稿で言及したように各国は独自の社会環境や交通事情に制約を受けるが故に、それぞれの環境に合った解決策を探す必要がある。デンマーク市民は、環境に優しい政策を望むと一般的に言われるが、利便性が低く高額なサービスとなってしまう場合には、利用に二の足を踏むのは、他国の状況と大して変わらない。残念ながら、環境大国デンマークにおいても環境に良ければ不便でも良いという風には考えられないようだ。
この状況を危惧してか、コペンハーゲン市長は、2019年より市内のディーゼル車の走行を禁止する施策を検討するなど、2050年までに掲げた目標を達成するべく奮闘している。
現在のところ、デンマークの今後のEV利用に弾みをつけそうな戦略は見つかっていない。ただ、デンマークのお家芸とでも言える産官学民で進めるソーシャルな仕組みが、デンマークの環境政策の遅れをカバーしているとも言える。
具体的には、自転車ハイウェイの敷設や自転車利用の促進、そして今EVや一般車を活用したほんのちょっと環境に優しいカーシェアリングサービスがそれに当たるだろう。
日本では、EVシフトが進むことで車関連系列企業や請負産業への影響が出るのではとの懸念がある。しかし新産業が勃興することで従来産業が圧迫を受けるという構図は欧州も同じで、EU製造業の雇用者全体のうち11%は自動車関連の製造業である。
今後は日本も含む各国が、施策を通じて、どのように利益を生みつつ、環境に優しいエネルギーを使うか考えることが重要である。そしてコペンハーゲンの地に足のついた方策が何らかの示唆を与えることになれば、と思うのである。
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