図)イメージ NISSAN ENERGY SHARE
出典)日産自動車株式会社
- まとめ
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- 被災地での電力復旧は意外と早い。
- EV/PHEVは非常時の電力供給に役立つ。
- V2Hは、EV/PHEVから家に給電できるシステム。国の補助金も。
能登半島地震発生から約1か月。いまだに避難生活を送っている方がたくさんおられる。心からのお見舞いと、一日も早い被災地の復興を祈らずにはいられない。
前回、災害時にインターネット上に流布されるフェイクニュースについて触れた。(参考:能登半島地震 フェイクニュースにだまされないために 2024.01.30)今回は被災地の電力供給について考えたい。
自然災害で家を失った被災者が必要とするものには、水、食料、寝る場所の他にガソリンや電気がある。ガソリンはガソリンエンジン車を動かすのに必要だ。移動はもちろんのこと、車中泊をする人もいる。冬は暖房、夏は冷房のためにエンジンを動かすことになる。
しかし、災害時のガソリンスタンドの復旧には時間がかかる。
2011年3月11日の東日本大震災の時は、製油所からガソリンスタンドまで石油製品のサプライチェーンが被害を受け、ガソリンなどの供給不足が広範囲に発生した。地震と津波で製油所と油槽所が稼働できなくなり、タンクローリーも被災した。さらに停電と在庫不足でほとんどのガソリンスタンドは営業停止となった。東北6県でガソリンスタンドの約90%が営業再開したのは、4月6日だった。復旧に1カ月弱かかったことになる。
2016年4月14〜16日に起きた熊本地震、2018年2月の福井豪雪、2018年9月6日の北海道胆振東部地震でもガソリンの供給不足は発生した。
一方、大災害時のライフラインの復旧のスピードだが、内閣府による首都直下地震による東京の被害想定によれば、各ライフラインの復旧目標日数は、電力が6日、上水道が30日、ガス(都市ガス)が55日となっている。(内閣府:首都直下地震の国の復興対策に関する検討の視点について(参考資料))
東京都も電力は発災直後の停電が3日後から徐々に解消し始めると想定している。(東京都防災会議:東京都の新たな被害想定 ~首都直下地震などによる東京の被害想定~)
被災地にEVという選択
こうしたなか、EV(電気自動車)が改めて注目されている。
EV(PHEV:プラグインハイブリッド車含む)は大容量の電池を搭載している。被災地でEV/PHEVが電源車として使われ、人々に認知されたのは、2016年の熊本地震の時だ。三菱自動車工業株式会社(以下、三菱自動車)がPHEVアウトランダー20台を被災地に貸与した。避難所などで灯りなどの電源として活躍している映像がニュースで流れた。
その後、日産自動車株式会社(以下、日産)と三菱自動車など自動車メーカー各社は自治体と災害連携協定を次々と結び、災害時にはディーラーから避難所などへEV/PHEVが貸与される仕組みを整えた。
日産は、EV活用による社会変革、社会課題を解決する活動を「ブルー・スイッチ」と命名し、2018年から活動をスタートしている。その活動のひとつとして、EVを活用した、自治体との災害連携協定がある。例えば名古屋市と日産、地元ディーラーらは、2021年7月に災害連携協定を締結している。災害時に市民の所有する電気自動車などを活用する災害時協力登録車制度を導入したほか、電気自動車などからの電力を供給するための可搬型給電器を各区役所や支所へ配備し、災害発生時に避難所などに電力供給する体制を構築した。こうした自治体との災害連携協定はすでに200件を超している。
出典)日産自動車株式会社
また、公益社団法人名古屋市獣医師会も同様の協定を結んでいる。災害による大規模停電が発生した際に、名古屋市獣医師会が指定する動物病院などにおいて、日産の販売会社より貸与されるEVを電力源として、動物病院などの運営を円滑におこない、動物の生命を守るものだ。
出典)日産自動車株式会社
また、三菱自動車も同様の災害時協力協定、「DENDOコミュニティサポートプログラム」を各自治体と締結しており、同社のPHEVなどを被災地に派遣している。
V2Hとは
日本のEV普及率は他の国に比べてまだ低く、街中で目にすることは稀だ。それでも、2022年6月に日産が軽自動車のEV「サクラ」を発売すると1年で約5万台売れるなど、EVのニーズも徐々に上がってきている。
これまで述べてきたように、災害時にEVは非常用電源となりうることや、電力の復旧が比較的早いことなどからその価値が見直されている面もあるだろう。
そのEVを自宅に給電するシステムがある。「乗り物(Vehicle)から家(home)へ」を意味する、「V2H(Vehicle to Home)」という。具体的には、EVやPHEVのバッテリーに貯めている電力を、自宅で利用したり、太陽光発電などの住宅用発電システムでEVを充電したりする機器やシステムをいう。(参考: “幸福度ランキング”上位のさいたま市「スマートシティさいたまモデル」とは 2023.02.14)
日産によると、EV「リーフe+」(60kWh)なら約4日間、家中の家電の電力をまかなえると試算している。(一般家庭での一日あたりの使用電力量を約12kWh/日とした試算値)
V2Hを導入すると、例えば、昼間に太陽光発電でつくった電気をEVに貯めておき、夜にEVから家に給電することで、エネルギーの自給自足が可能となるうえ、災害時の電源としても使うことができる。家庭用蓄電池(平均容量4〜12kWh)と比べてEVのバッテリーは容量が大きい(40〜60kWh)ため停電時に長時間電気を使うことができる。
気になる導入コストだが、V2Hには特殊な機器が必要になる。EVやPHEVの大容量バッテリーに蓄えられた電気は「直流」だが、家庭用の電気は「交流」のため、その変換が必要になる。
こうしたV2H機器はまだ高額で、約50~100万円もする。それに加え、工事費が30~40万円ほどかかる。
出典)ニチコン株式会社
こう聞くとV2H導入のハードルは高そうだが、国や自治体の補助金がある。
V2H機器の購入費、工事費共に補助金対象となっている。2023年の国の補助金は機器購入費と工事費合わせて上限115万円だった。(機器購入費75万円+工事費40万円:注1)EV/PHEVの購入代金も補助金対象だ。詳細はこちらを参照してもらいたい。(一般社団法人次世代自動車振興センター)
自然災害はいつ私たちを襲うかわからない。災害時に電力をどう確保するか、考えるきっかけにしたい。
- ・(別表1)銘柄ごとの補助金交付額 【V2H充放電設備】V2H充放電設備の補助上限額:750千円
・令和4年度補正 及び 令和5年度 クリーンエネルギー自動車の普及促進に向けた 充電・充てんインフラ等導入促進補助金応募要領V2H充放電設備:一般社団法人次世代自動車振興センター 令和5年3月 p.24 V2H充放電設備設置工事の項目と補助金交付上限額(個人宅) :400千円
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