写真)スマートメーターが設置されている集合住宅(右上がスマートメーター):この写真はイメージで本文と直接関係はありません。
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- まとめ
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- スマートメーターから取得した電力データを利用した「高齢者見守りサービス」が開始された。
- 一人暮らしの高齢者の電力使用状況を分析し、異常値が検知されたら家族に通知する。
- その「高齢者見守りサービス」を、住宅難民問題解消につながるような不動産関連のサービスとして展開したものが好評となっている。
以前の記事、「こんなに快適!最新スマートホーム(2020.02.18) |で紹介した、スマートメーターから取得した電力データを利用したサービスが、いよいよ現実のものになってきた。
2023年10月から、一般送配電事業者が保有するスマートメーターのデータのうち需要家本人の同意を得た個人データを、電力データ管理協会を通じて、一般送配電事業者以外のデータ利用者に、提供することが可能になったのだ。(前回記事「一般送配電事業者9社、中央給電指令所システムを統一。そのメリットは?(2023.11.21)」参照)
今回紹介するのは、「高齢者見守りサービス」を開発した中部電力ミライズコネクト株式会社(以下、ミライズコネクト)だ。
ミライズコネクトは、中部電力ミライズ株式会社と三菱商事株式会社の共同出資事業会社で、家族の絆やつながりを育むサービスを開発・販売している。2022年7月、高齢者見守りサービス「テラシテ」を開始した。
「テラシテ」は、離れて暮らす親や一人暮らしの高齢者の電力使用状況を分析し、普段の生活パターンと異なる状態になった場合にスマホのアプリ経由で家族に通知を送るサービスだ。
たしかに子どもにしてみれば、離れて暮らす高齢の両親が元気でいるかどうか気になるもの。ましていわんや、1人暮らしとなるとなおさら心配だろう。
これまでも室内センサーや、電気ポットの使用状況による見守りサービスはあったが、新たに機器を購入、設置しなければならないという問題があった。「テラシテ」は、スマートメーターからの電力データを使うだけなので利用者側で機器を買う手間や負担が省ける。
「テラシテ」のサービス内容
「テラシテ」のサービスは、中部地域(愛知県、岐阜県、三重県、静岡県[富士川以西]、長野県)に居住しており、自宅の電気を中部電力ミライズで契約している人が対象となる。
その機能は:
・親の活動状況、起床・就寝時間の変化をスマホの画面上で知らせる。
・親の住居の電力消費データから活動状況を分析する。
・親の活動状況に異変を検知したら、プッシュ通知で知らせる。
・緊急連絡先(親やヘルパーなどを任意で登録可能)を表示し、ワンタップで電話ができる。
というもの。
スマホの画面で、親の生活パターンが分かるだけで安心感が違う。また、異変があって通知が来たら、すぐにしかるべき人に助けを求めることができる点も便利だ。
料金は月額550円(税込)と、この手のサービスとしては破格だ。
出典)中部電力ミライズコネクト
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住宅難民問題解消に貢献する見守りサービスの展開
実は「テラシテ」、最初、顧客として対象にしたのは介護サービスを自宅で利用している高齢者だった。離れて暮らす家族がサービスに加入し、高齢の両親を見守るという仕組みだ。しかし、思ったほど契約が伸びなかった。それにはいくつかの理由があった。
「まず、申し込みをするのが家族だからです。見守られる人は離れて暮らす親御さんなのですが、電力データは個人情報なので、親御さんご本人の許諾がないと使えないのです」。
つまり、データを見る人(家族)と、個人情報を持っている見守られる人(高齢者)が違う、ということが起きるのだ。そのため、電力データの使用について、ミライズコネクトで見守られる人の許諾を取るという手続きが必要になるなど、利用開始する時に一定の難しさがあったと秋山氏は言う。
もう一つは、サービスの加入を誰が高齢者に勧めるのか、という問題だ。最初は介護事業所に勤めているヘルパー(訪問介護員)に依頼したが、間接的に販売するのでは、契約数の伸びは鈍かった。
「やはり申し込みが容易でないと、契約数が伸びないことがわかり、いろいろ試行錯誤しました」。
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そこで浮上してきたのが「不動産会社」や「家賃保証会社」だ。家賃保証会社は、入居者が家賃を滞納したとき、入居者に代わって家賃を大家に支払う会社である。これらの事業者が提携先として浮上してきた背景にはある社会問題があった。
いわゆる「住宅難民問題」である。聞いたことがない人もいるかも知れないが、高齢化社会において深刻な問題となっている。
どのような問題かというと、保証人がいないとか、身寄りがいない独居だと死亡したときに、事故物件扱いに伴う資産価値低下リスクや相続人探し等の相続関連対応が煩雑などの理由から、65歳以上の高齢者が賃貸住宅を借りようとしても、不動産会社や大家から契約を断られてしまうことをいう。
住宅難民問題を解消することが必要だと考えた秋山氏は、「テラシテ」を不動産関連のサービスに切り替えて、電気の使用状況で賃貸物件入居者を見守るサービス「テラシテR」として展開することにした。中でも、家賃保証の分野で高いシェア率を誇る、株式会社Casaと提携し、家賃債務保証プランに付帯してサービス提供をおこなうことで、大家や不動産会社も導入がしやすく、信頼を獲得することにつながった。
「一番大きなところは、家族が見守っているのではなくて、私どもが見守っていることです。身寄りがなくひとりで住まざるを得ない人たちにこうしたサービスを提供すれば、賃貸の機会もつくることができるのでは、と考えました」。
出典)中部電力ミライズコネクト
さらに鍵となるのが、不動産会社の手間が省ける点である。
他のサービスでは、センサー類など機器の設置などの手間がかかり、不動産会社の理解を得ることが困難だった。不動産会社にとって、最大の課題は、「いかに手間なくサービスを提供できるか」だと秋山氏は気づいたという。
「テラシテR」のサービスはこうした諸課題を解決したものになった。賃貸契約で、家賃保証の申し込みをするときに、見守りサービスに同意すればサービスを利用できるようになっているのだ。
「不動産会社にしても、契約したらあとはミライズコネクトに連絡するだけです」。
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ミライズコネクトが見守りをし、異常検知時はSMS(ショートメッセージサービス)などで不動産会社や緊急連絡先に連絡が入る。不動産会社は余計な手間がかからないのが大きい。家賃保証会社にしても差別化になり、ビジネスチャンスが広がる。
なにより、今まで入居を断られていた「住宅難民」の人にとっては、契約時のハードルが下がることで、賃貸契約ができる道がひらけるわけだ。皆がWin-Winになる仕組みと言えよう。
実際、「テラシテR」の評判は上々だという。
「不動産仲介会社にCasaと一緒に行くと、皆さん興味を持っていただいて、契約率はいまのところ100%です」。
電力データを使用する見守りサービスを、契約している電力会社(小売電気事業者)の制約なく提供することは全国で初めてというこのサービス。その活動範囲は中部地域だけにとどまらず、全国にまで広がりを見せている。10月以降、首都圏や関西圏への展開も始まった。
出典)中部電力ミライズコネクト
さらに秋山氏は、ターゲットとして、独居の高齢者だけでなく、一人暮らしの学生など、親元を離れて生活する若い層を取り込むことも見据えている。1人暮らしの家族が心配なのは、対象者の年齢を問わないということなのだろう。
電力データを使ったサービスはさまざまなジャンルで展開可能だ。金融や消費などで、消費者にとって便利なサービスがこれからもどんどん生まれてくるだろう。
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