画像)株式会社大林組が受注した「アトラシアン・セントラル」の完成イメージ
出典)株式会社大林組 プレスリリース
- まとめ
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- 日本企業による木造高層ビルの建設が海外で相次いでいる。
- 木造建築は脱炭素や日本の森林の健全化において重要である。
- 今後、日本での浸透も目指していくと思われる。
【日本企業による建築がオーストラリアで次々】
以前エネフロでも紹介した木造高層ビルだが、海外での建築例が増えてきた。(参考記事:木造超高層ビルが環境を救う)
株式会社大林組は2022年8月24日、オーストラリアの「Built Pty Ltd」との共同企業体において、シドニーで木材と他の構造部材を組み合わせた木造ハイブリッド構造のビル「アトラシアン・セントラル」の施工を、現地の大手不動産会社であるDexusから受注したと発表した。
建設するビルは高さ182mで、木材と鉄骨でできた「木造ハイブリッド構造」としては世界最高となる。シドニーのイノベーションと技術の街区であるTech Centralの象徴となるオフィス、宿泊および店舗エリアを含む複合施設で、7階から上がハイブリッド構造だ。
また住友林業株式会社とNTT都市開発株式会社も、オーストラリアのメルボルン市近郊コリンウッドに大規模木造オフィスを建設する。木材と鉄筋コンクリートでできた「RC・木造混構造」(地上15階、地下2階の)で、木造オフィスの中ではメルボルンにおいて最高層となる見込みである。
このオフィスは建築物の使用時に排出されるCO₂を実質ゼロにする、いわゆる「ネットゼロカーボンビル」実現の第一歩となる。今後、環境負荷の低い中大規模木造建築をオーストラリアに展開することで得られる知見を日本に還元し、国内の同事業の発展につなげていく予定だ。
出典)NTT都市開発株式会社
木造建築のメリット
高層ビルといえば鉄筋コンクリート造りが主流で、木造の高層ビルといわれても、イメージがわかない人が多いと思われる。しかし国土の約3分の2を森林が占める日本において、木造建築のメリットは想像以上に大きい。
①CO₂の固定量の増大
木は、光合成により何十年もCO₂を吸収しつづけ、炭素の形で蓄積している。木が建築用材になってもCO₂は炭素のまま閉じ込められており、その炭素の分だけ大気中のCO₂は減っていることになる。これを「CO₂の固定化」という。
このように木造建築は炭素の貯蔵庫として機能するため、木造建築は「第二の森林」とも呼ばれている。林野庁は「建築物に利用した木材に係る炭素貯蔵量の表示に関するガイドライン」を公表して建築物への木材利用促進を奨励している。
家具などの木材を使った製品も炭素を貯蔵する機能は持っているものの、規模が小さくライフサイクルが短いためそれほど高い効果は得られない。長く活用することが前提となる木造建築物は、炭素も長期間貯蔵されるため、CO₂固定量の増大に貢献する。
また建物解体時も、発生するCO₂は木材となる木が成長過程で吸収した、元々自然界にあったものなのでCO₂濃度を上昇させることもなく、脱炭素化が進む現代において期待される建築法だ。
②健全な森林の保持
日本は世界有数の森林資源国であり、また森林蓄積量(森林を構成する樹木の幹の体積量)は年々増えている。
しかしながら林業に携わる人の減少や安い輸入材の利用などにより放置されたままの森も多いのが現状だ。木材利用による間伐をおこなわなければ木立の間に日光が入らず、下草が育たなくなって土壌の栄養が失われたり、土砂崩れの原因となったりする。また高齢の木ばかりになるとCO₂の吸収量が低下するなど、森林としての機能も落ちる。
国内の木材を利用した建築が盛んになれば、森林の育成・伐採が進み、森林を健全な状態で保つことができるのだ。また森林のこまめな手入れや利用は林業や地域の活性化にもつながる。
【耐震性・耐火性の克服】
ただ建造物は「安全性」が一番重視される。鉄筋コンクリートと比べて木材は耐震性・耐火性が劣ると見られ、木造高層ビルの建築はなかなか難しいとされてきた。こうした課題をどのように克服してきたのか。
①耐震性
地震が多い日本では、古くから耐震性に優れた建物も見られる。例えば日本最古の木造建築、法隆寺の五重塔はあえて「あそび」を持たせることで地震の揺れを吸収する「免震構造」を持っている。
ただ現代の耐震基準に合わせた高層ビルの建築には新たな手法が必要になる。欧州で生まれた「CLT(Closs Laminated Timber)」という技術もその一つだ。これは木板を繊維方向が直交するよう積層接着した材料だ。コンクリートと比べて軽量だが耐震性もあり、また厚みがあるため耐火性や遮音性にも優れる。
出典)CLTとは|一般社団法人 日本CLT協会(※記事の内容は本写真提供先およびCLT協会とは関係ありません)
木造でありながらコンクリートと同じくらいの強度を持たせることで耐震基準を満たすことができるようになってきた。
②耐火性
前述のCLTは厚みのある木材を用いることで燃焼に時間がかかり、その間の消火や避難を可能にする。この他にも、木材にあえて燃やす部分を作ることで燃え広がらないように工夫した木造建築の技術は各社で開発されている。
例えば、「FRウッド(Fire Resistant Wood)」という日本産のスギ材のみを利用した純木質耐火構造部材がある。鹿島建設株式会社の持つ技術で、柱や梁にあたる荷重支持部の周囲に難燃薬剤を注入した燃え止まり層をおき、火災が起きても構造を支える内部まで燃焼を進行させない仕組みとなっている。
従来、木造で耐火建築物を実現するためには、石膏ボードなどで木を覆う必要があったが、この技術により見た目は木材のまま耐火性を確保することができるようになった。
このように木造の課題はひとつずつ克服されてきている。建築コストや防腐・防蟻などの課題は残るが、耐久性能などはかなり進歩してきている。
【日本での取り組み】
林野庁によれば、1〜3階建ての低層住宅の木造率は8割に上るが、4階建て以上の中高層建築および非住宅建築の木造率はいずれも1割以下と低い状況にある(2019年時点)。
このように木造高層ビルはまだ国内では浸透していないが、日本の企業は海外での建築例を増やし、それをてこに日本での普及につなげたい考えだ。
例えば、冒頭で紹介した株式会社大林組は2022年5月に日本初の高層純木造耐火建築物「Port Plus」(次世代型研修施設)の完成を発表した。
これは地上部の全ての主要構造部を木材とした純木造耐火建築物としては日本最高となる11階建てで、2時間の耐火性を持つ「オメガウッド」や鉄骨造と遜色のない強度・剛性を確保するための接合法、十字形の「剛接合仕口ユニット」など独自の技術で課題を解決し、新たな都市木造建築のあり方を示している。
また、脱炭素の流れが強まるなか、オフィスビルに加え商業ビルでも環境対応が求められる時代に入ってきた。
例として、東京・銀座には隈研吾氏がデザインした象徴的な木造ビルが2021年10月に誕生。ヒューリック株式会社が開発、株式会社竹中工務店が設計・竣工し、米アップルの直営店「アップルストア」が中核テナントとして入居している。
画像提供)Jun Shimada
不動産大手による木造高層ビルの建築例も相次いでいる。三菱地所株式会社は21年秋、札幌市に木造の高層ホテルを開業した。地産地消をテーマに北海道産の木材を使用した国内初の高層ハイブリッド木造ホテルで、構造材に使用される木材量は国内最大規模である。
三井不動産株式会社は株式会社竹中工務店と連携し、国内最大・最高層となる地上17階建ての木造ビルを東京・日本橋に建設する計画を進めている。こちらも北海道産の木材を積極的に利用する予定だ。
今後の都市部の再開発では「脱炭素への貢献」が重要なキーワードになりそうで、木造高層ビルが我々の身近な存在になる日もそう遠くはない気がする。
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