写真)愛知県刈谷市一ツ木配水場マイクロ水力発電所
出典)株式会社DKーPower
- まとめ
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- クリーンなエネルギーとして川や農業用水、砂防ダム、上下水道などの水を利用して発電する「マイクロ水力発電」が注目されている。
- 民間と組んで、すでに多くの自治体で採用が広がっている。
- 電力会社も、電力スマートメータの通信網を活用して水道使用量の「見える化」や漏水の早期発見など、取得した水道使用量データの利活用に関する検討をおこなうなど、水道事業への参入を計画している。
脱炭素社会の実現に向けて、国内外が再生可能エネルギーに注目している。太陽光発電や風力発電が取りざたされる中、目立たないが水力発電は発電時にCO₂を排出しないクリーンなエネルギーであり、再生可能エネルギーの一翼を担っている。
それどころか、水力発電は日本の総発電電力量の7.8%を占めており、他の再生可能エネルギーの比率10.3%と比べても遜色ない比率であることがわかる。
(注)1971年度までは沖縄電力を除く。発電電力量の推移は、「エネルギー白書2016」まで、旧一般電気事業者を対象に資源エネルギー庁がまとめた「電源開発の概要」および「電力供給計画の概要」を基に作成してきたが、2016年度の電力小売全面自由化に伴い、自家発電を含む全ての発電を対象とする「総合エネルギー統計」の数値を用いることとした。なお、「総合エネルギー統計」は、2010年度以降のデータしか存在しないため、2009年度以前分については、引き続き、「電源開発の概要」および「電力供給計画の概要」を基に作成している。
しかし、大型の水力発電所用の貯水池をつくることができるような山間地はほぼ開発され尽くしており、最近では川や農業用水、砂防ダム、上下水道などの水を利用して発電する、「小水力発電」が注目されている。日本では、ダムのような調整池を使わず、流れる水をそのまま発電に利用する、「流れ込み式」が主流となっている。世界的に統一されているわけではないが、日本では1,000kW以下のものを「小水力発電」と呼ぶことが多い。
その特徴は:
長所
・天候に左右されず、昼夜、年間を通じて安定した発電が可能。
・CO₂を排出しない。
・出力変動が少ない。
・設備利用率が高い。
・大規模な工事が必要ない。
・未開発の包蔵量が多い。
短所
・落差と流量のある箇所に設置地点が限られる。
・水利権等の法的手続きが煩雑で、面倒である。
などがあげられる。
今回は、その中でも「水道」を利用した「小水力発電」を取り上げる。
水道管を利用した発電
川や用水路ならイメージがわくが、水道管は人の目に触れないのでぴんとこないかもしれない。しかし、水道管を利用した「小水力発電」はすでに実用化されている。
愛知県豊田市高岡配水場の「マイクロ水力発電システム」(同システムは小水力発電ではなく、マイクロ水力発電との呼称を使用している。以下、マイクロ水力発電)を紹介しよう。
このシステムは、愛知県営水道尾張東部浄水場と高岡配水場の水位差によるエネルギーを利用して発電するもので、水道事業として愛知県初の官民連携マイクロ水力発電システムとなる。年間想定発電量は約154千kWhで、一般家庭43軒分の電気使用量に相当するという。
2019年5月に運用が開始しており、事業期間内は、行政財産目的外使用料(約4万円/年)と売電利益還元料(約31万円/年)を合わせて約35万円/年が豊田市に支払われる。また、年間約75tのCO₂排出量の削減効果が見込まれている。
出典)豊田市
官民連携といったが、高岡配水場のマイクロ水力発電システムのパートナーは、株式会社DK-Powerだ。この会社は空調機メーカー大手のダイキン工業株式会社の研究開発施設から生まれた初のスタートアップとして始まった。
出典)株式会社DK-Power
すでに述べたようにマイクロ水力発電は利点が多いが、導入時にコストがかかることが課題になっている。他の大規模電力発電施設と比較すると低コストではあるものの、導入時一定程度の初期投資は必要だ。水道事業を営もうとする自治体としては二の足を踏む要因となっていた。
そのためDK-Power社は、自治体から設置料を徴収せず、自社負担することにした。自治体は水道施設を貸すだけで、先に述べたように売電利益還元料などを得ることができるので、導入のハードルはぐっと下がるわけだ。まずは各自治体の水道事業と連携することを最優先にする計画と思われる。すでに全国30以上の水道施設に発電設備を設置しており、今後も拠点を拡大していく計画だという。
電力会社と水道ビジネス
ここまで、水道を利用したマイクロ水力発電について見てきたが、電力会社は水道を別な観点から活用しようとしている。
先週、中部電力のDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略について触れたが、今後拡大していく事業領域の1つとして「水道事業」が入っていることに気づかれただろうか。
(参考記事:「DX人財倍増の600人超へ。基盤領域が厚くなるほどDXの可能性が生まれる」中部電力伊藤久德取締役専務執行役員経営戦略本部長、CIO」)
出典)中部電力「中部電力グループにおけるDXの取り組み」2021年12月6日
すでに中部電力は去年から、名古屋市上下水道局と「水道スマートメータによる水道使用量自動検針の試験導入」をおこなっている。電力スマートメータの通信網を活用し、安定的に水道使用量データを取得できることを確認することに加え、水道使用量の「見える化」や漏水の早期発見など、取得した水道使用量データの利活用に関する検討をおこなっている。
出典)豊橋市上下水道局
背景として、2019年に厚生労働省が水道法を改正したことにより水道の民営化が加速したことが理由の一つとして挙げられる。民間企業が水道ビジネスに参入しやすくなったのだ。
出典)中部電力
先に述べた「マイクロ水力発電」の発電量も含め、通信によりあらゆるデータをリアルタイムに一元管理・分析することで、エネルギー供給の効率化や無駄のない利用に繋がるとともに、使用者に全く新しい情報サービスを提供できる可能性が生まれてくる。
地球環境に優しく、無駄のないインフラを当たり前のように選択する時代はもうすぐそこにきている。
参考:
全国小水力利用推進協議会
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