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テクノロジーが拓く未来の暮らし

Vol.38 「空気で電力貯蔵」再生可能エネルギー普及を後押し

写真)NEDO圧縮空気エネルギー貯蔵(CAES)システムの実証施設の外観(2017年4月~2019年2月)

写真)NEDO圧縮空気エネルギー貯蔵(CAES)システムの実証施設の外観(2017年4月~2019年2月)
出典) 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構

まとめ
  • 空気を使ってエネルギーを貯蔵する「圧縮空気エネルギー貯蔵(CAES)」という技術がいま大きな注目を集めている。
  • CAESに加え、「液化空気エネルギー貯蔵(LAES)」という技術も開発されている。
  • こうした空気を蓄電に利用する技術が再生可能エネルギーの普及を後押しする日は近い。

私たちの身の回りに、当たり前のように存在している空気。その空気を使って、エネルギーを貯蔵する技術が、いま大きな注目を集めている。

圧縮空気エネルギー貯蔵とは

その技術は、「圧縮空気エネルギー貯蔵(Compressed Air Energy Storage)」、通称CAESと呼ばれる。まずはその仕組みを説明しよう。

空気によってエネルギーを貯蔵するCAESは、簡単に言うと、空気を圧縮することによって電力を「充電」し、その圧縮した空気を開放し発電機を回すことで電力を「放電」させる技術である。

その仕組みをさらに詳しく見てみよう。

CAESでは、まず風力発電や太陽光発電などによって発電した電力で圧縮機(モーター)を稼働し、空気を圧縮して高圧状態にしてから、この圧縮空気をそのまま貯蔵する。これがいわゆる「充電」にあたるプロセスだ。

そして電力が必要になったら、貯蔵してある空気の圧縮を解き、空気を膨張させることで、膨張機(発電機)を回転させ電力を発生させる。これが「放電」にあたるプロセスだ。。

写真)NEDO「電力系統出力変動対応技術研究開発事業」におけるCAES構成模式図
写真)NEDO「電力系統出力変動対応技術研究開発事業」におけるCAES構成模式図

出典)国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構

一度発電したエネルギーを、空気の圧縮によって貯蔵し、必要な時に必要な分だけ使うことを可能にするのが、CAESという技術だ。

なぜいまCAESなのか

電力の貯蔵を可能にするCAESは便利な技術だが、この技術自体は決して新しいものではない。事実、この技術が最初に実用化されたのは、今から40年以上も前のことだ。

そのCAESが、今になって注目を集めているのはなぜか。その一つの理由が、地球温暖化が深刻さを増す中、従来主流だった石油・石炭による発電から再生可能エネルギーによる発電への移行が、世界中で急速に進んでいることだ。

写真)今後予想される世界的な再生可能エネルギー比率の上昇
写真)今後予想される世界的な再生可能エネルギー比率の上昇

出典)経済産業省資源エネルギー庁

一方、風力発電や太陽光発電などといった再生可能エネルギーは、天候によって発電量が大きく左右され、電力を安定的に供給できないという問題を抱えている。

しかし、電力の貯蔵を可能にするCAESを用いれば、再生可能エネルギーが持つこの課題は解決に近づく。すなわち、天候によって発電量が変動しても、発電量が多い日にはCAESで「充電」し、逆に発電量が少ない日には「放電」することで、安定的な電力供給が可能になるからだ。

国内では2017年から2019年にかけてCAESの実証実験が行われた。

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)早稲田大学一般財団法人エネルギー総合工学研究所のチームは、2017年4月から、東京電力東伊豆風力発電所にて、風力発電の出力変動を緩和するための蓄エネルギーシステムとしてCAESシステムを構築し、変動緩和および計画発電について、予測情報を利用した蓄エネ装置の制御手法を開発し、制御の効果を実証した。(2019年2月末に「電力系統出力変動対応技術研究開発事業」の事業終了とともに終了)

NEDOは成果について、「実証実験の結果、変動緩和に関して必要な蓄エネ容量の大幅減(従来手法の25%以下)が実現できることを示した。すなわち、この予測を組み合わせた制御手法を開発したことにより、蓄エネシステムの小型化が期待できる」としている。また、本事業で得られた課題として、「蓄エネシステムとしての効率向上、低コスト化、スケールアッププラントでの実証」などを挙げている。(注1

発電量の変動を制御する技術の精度は、今後更に高めていく必要がある。

写真)CAESを利用した発電量の変動緩和の実証実験が行われた東京電力東伊豆風力発電所(2015年8月に営業運転を開始)
写真)CAESを利用した発電量の変動緩和の実証実験が行われた東京電力東伊豆風力発電所(2015年8月に営業運転を開始)

出典)東京電力リニューアブルパワー

CAESを支える新技術

40年以上前に生まれたCAESが、今注目を集めている2つ目の理由。それはCAESが抱えていた課題が解決に向かっていることだ。

課題のひとつが、圧縮空気の保管場所をどう確保するか、という問題だった。CAESを利用するには、圧縮した空気を気密性が高い地層中で保管する必要があるため、従来は岩塩層という特殊な地層を持つ地域だけが対象となっていた。

しかし最近の研究では、結晶性の高い火成岩と地下水の水圧を組み合わせることで、岩塩層ではない地域でも、圧縮空気の保管が可能なことがわかってきた。また火成岩質の貯蔵空間として全国にある廃坑を再利用する案なども浮上し、保管場所の新設コストも低く抑えられる見込みが出てきた。

この他にも、従来のCAESには、空気を圧縮する際に大量の熱を失うため発電効率が低くなるなどの課題があったが、圧縮時に発生する熱を特殊な触媒に貯蔵し、発電時に再利用するなどの技術も研究されている。

CAESの展開が進む北米の実例

CAESの実用化が日本に先駆けて進められている北米で、昨年動きがあった。カナダに拠点を置くHydrostor社が、出力500MW 、容量4,000MWhという巨大なCAESの開発の申請書を、カリフォルニア州のエネルギー委員会に提出したのだ。

写真) Hydrostor社の展開する『A-CAES』における圧縮空気の保管のイメージ
写真) Hydrostor社の展開する『A-CAES』における圧縮空気の保管のイメージ

出典)Hydrostorの公開しているイメージビデオよりキャプチャ

同社が開発しているのは、『A-CAES』と呼ばれる最新のCAESで、圧縮した空気を利用した「放電」と揚水発電をかけ合わせたものになっており、発電効率に優れている。同社は、すでに太陽光発電の導入量で全米トップを走っているカリフォルニアを足がかりに、今後の再生可能エネルギー市場を支えると見られるCAESを積極的に展開していく構えだ。

LAESというもう一つの選択肢

しかしCAESにも、最近ライバルが現れた。それは、空気を使ってエネルギーを貯蔵するもう一つの技術、「液化空気エネルギー貯蔵(Liquid Air Energy Storage)」、通称LAESだ。

LAESは、基本的にはCAESと同じ仕組みで、まず余剰電力で空気を液化させ(充電)、必要な時にこの液化空気を気化させ発電機を回すことで、電力を発生させる(放電)というものだ。

写真) LAESのメカニズム
写真) LAESのメカニズム

出典) 住友重機械工業

空気は圧縮するよりも液化させたほうが体積が小さくなるため、LAESにはCAESよりもコンパクトに大量の空気を貯蔵できるという利点がある。そのためLAESは、利用できる土地の少ない都市部での設置に適しており、普及に有利だと考えられている。

現時点では、CAESの方が先行しているが、イギリスのHighview Power社などを筆頭に、LAESの研究に力を入れる欧米企業も増えてきた。日本では、住友重機械工業がHighview Power社を支援しており、2024年以降に日本にもLAESのデモ機を設置することを計画しているという。

写真) Highview Power社が公開しているLAESプラントのイメージ
写真) Highview Power社が公開しているLAESプラントのイメージ

出典)Highview Power社公式YouTubeチャンネルより

ここまで見てきたように、私たちの身の周りに当たり前に存在している空気は、新しい技術によって、大きなエネルギーを貯蔵できる貴重な資源になろうとしている。こうした空気を利用する技術が再生可能エネルギーの普及を後押しする日が間近に迫っているようだ。

  1. 「電力系統出力変動対応技術研究開発事業」実証実験の課題(NEDOによる)
    ・個別の一般送配電事業者の募集枠に記載される変動緩和の仕様に合わせた制御ロジックの開発。
    ・他種電源等と組み合わせた場合の計画値同時同量制御の確立。
    ・蓄エネシステムとしての効率向上、低コスト化、スケールアッププラントでの実証。
安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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IoT、AI・・・あらゆるものがインターネットにつながっている社会の到来。そして人工知能が新たな産業革命を引き起こす。そしてその波はエネルギーの世界にも。劇的に変わる私たちの暮らしを様々な角度から分析する。