写真) 中部電力事業創造本部の樋口一成部長
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- まとめ
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- 中部電力は「新しいコミュニティの形」を提供していく為に事業創造本部を立ち上げ。
- これまでにベンチャー企業への投資や、情報銀行実証などを行った。
- 2030年に向け、収益の一つの核に育てていく。
企業を取り巻く経営環境は今大きく変わっている。人口減少、経済成長の鈍化、高齢化にともなう社会保障費の増大、消費者の価値観の変化などが、私たちの社会のあり方を変えつつある。
電力事業者の高品質な電気を安定して、かつ安価に提供するという使命は不変だが、国内需要の拡大が見込みづらいことから各社とも新たな事業領域を模索している。
そうした中、中部電力は「ユーザーや社会に提供する新たな価値」は何か、という命題に取り組んでいる。エネルギー事業という従来の事業領域を超えて、ユーザーと社会を結ぶ「新しいコミュニティの形」を提供していくことを表明している。その核となるのが、2019年4月に発足した事業創造本部だ。
前身は、2018年4月に設置されたコーポレート本部事業戦略室で、従来の事業領域の枠を超えた新規ビジネスの創出などを手がけてきた。そして、今年4月、事業創造本部が誕生、コーポレート本部事業戦略室、ICT戦略室、グループ会社中電シーティーアイのICT事業開発に関する機能が統合された。
出典) 中部電力
既に陣容は100人を超える事業創造本部。樋口一成部長に新規事業の定義から聞いた。
新規事業
樋口氏新規事業には色々な切り口がありますが、電力供給に関わる事業も検討していますし、電力とは直接関係ない事業も手がけています。新規事業のコンセプトのひとつの柱として、「コミュニティサポートインフラ」を構築して地域に提供しようとしています。
「コミュニティサポートインフラ」とはどのようなものを指すのだろうか?樋口氏は、「社会課題をどうやって解決するか」を軸足にする、と明言する。
少子高齢化に伴う地域の疲弊、防犯や防災などの地域サービスの劣化などが、課題となっている。それをIT技術を使い解決していこうというのだ。
防犯では、中部電力は既に子供見守りサービス「どこニャン GPS BoT」(※1)を提供しており、それ以外にも、不審者情報や停電、地震、防災などの情報も配信している。また、中部電力の所有する電柱に設置したカメラ「mimamori-pole(見守りポール)」を提供し、街の防犯に取り組んでいる。
出典) 中部電力:「mimamori-pole」の概要
防災では、電力事業者の責務として電力の安定供給をこれまで通り、やっていく、と樋口氏は強調した。
コーポレートベンチャーキャピタル
事業創造本部がもう一つ力を入れているものに、「コーポレートベンチャーキャピタル」がある。ベンチャーキャピタルとは、ベンチャー企業に出資する投資会社をいう。先端技術や革新的なビジネスモデルを持つ企業や、ベンチャー投資ファンドへの投資を行うとしており、投資額は5年間で50億円規模を予定している。
樋口氏事業シナジーが期待できるところに投資をするという考え方をとっています。比較的短い期間でシナジーが発揮できる会社と、少し先の将来に期待できる会社と、バランスよく投資することを目指しています。
既に中部電力は、トヨタ自動車や三井住友銀行、スパークスグループが始めた「未来創生ファンド」と米シリコンバレーの「ウェストリー」というベンチャーキャピタルに投資をしている。それに加え、事業創造本部は発足してから既に3社に投資を決めている。(11月インタビュー時点)
第1号が、家族型ロボット「LOVOT(ラボット)」を開発した「GROOVE X」というロボットベンチャーだ。この会社は、ロボットの子どもの情操教育における有用性や、家族の中のあり方などに関する実証実験を行っていくという。
また、このロボットを介護施設に持っていくと、認知症の人などが癒(いや)されて笑顔になるという。施設職員の労働軽減の効果も期待できる。今後、その用途はさまざまな分野に広がりそうだ。
出典) LOVOT
第2号が、「DeCurret(ディーカレット)」という、仮想通貨交換会社。
第3号が、「NOVARS(ノバルス)」という、バッテリーとワイヤレス通信をパッケージ化した「コネクティッド・バッテリー」を使って、高齢者の見守りサービスを提供している会社だ。
出典) NOVARS
これらの投資案件を見ると、「社会の課題解決」に取り組んでいく、という事業創造本部の意気込みを感じる。また、今社会で急速に進むMaaS(マース:Mobility as a Service 「移動のサービス化」)(※2)にも注目していると樋口氏は言う。
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樋口氏興味はもちろんあります。自動車の電動化(EV化)が進展する中で、電力会社として、自動運転やEVの給電などで関わりは出てくると思います。また、車が家と一体化していくということもあるでしょうし、どういう展開をしていくのかまだ予測がつきませんね。
情報銀行
事業創造本部の中に、「データプラットフォームユニット」というデータを活用できるように管理・分析して価値に変えることを検討する部署がある。
樋口氏データがとても重要だと思います。できるだけデータを活用してよりパーソナライズされたサービスを提供していくことが時代の要請だと思います。
そうした中、「情報を預けることの信頼性」が重要になってくる、と指摘する。そこで、中部電力は地域特化型の「情報銀行」に取り組んでいる。電気契約者の個人情報を本人の同意を得た上で外部に貸し出し、企業の販促活動やサービス開発に生かすほか、防災や見守りといった地域課題の解決にも役立てるという。
樋口氏私たちは、情報をパーソナライズされたサービスに変えるお手伝いをしていきたいと思っています。(情報銀行は)個人個人が安心して情報を預けていただける仕組みだと思っています。
新規事業領域の目標
まだ発足間もない事業創造本部だが、目標は大きい。
樋口氏エネルギー分野が主体というところは変わらないのですが、できれば新規事業領域で2030年に全体の収益の1,2割位を占めるまで育てたいですね。収益のひとつの柱に育てるのが目標です。
そこからオフグリッド、すなわち、電気と関係ない領域でどれだけリーチできるかというのが1つの切り口かなと思います。
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まさしく、事業を創造し続けねばならないわけだが、事業創造本部の雰囲気は極めてフラット、樋口氏自身も、一担当者の立場で積極的に議論に参加しているという。
樋口氏ミーティングのお誘いは断ったことは多分ないですね(笑) ネットワーキングでいろいろ人と会って話を聞くのは大事だなと思っていますので。ですから、外部の人材はエージェントを使って採用するのではなく、そういう場で見つけたりするんですよ。そうして入社した人は、結構、核になってくれています。
このフレキシビリティー(柔軟性)とチャレンジングスピリットを発揮し、真っ白なキャンバスに、あらたな事業の絵を描いていく。困難だが、やりとげねばならない仕事に、今、樋口氏と100人のスタッフが挑んでいる。
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